モネ、ルノワール、ゴッホ。世界中の絵画ファンならだれでも知っている名前です。特に日本人ならこの三人の名前を知らない人はいないでしょう。なぜなら三人の共通言語は「印象派」だからです。なぜか日本人は印象派の絵画が好きなようです。印象派の作風は優しく穏やかであることが多いからでしょう。日本人の気性にあっているように思えます。
「あっ、チョット待ってください。モネとルノワールは分かりますよ。でも,ゴッホはちょっと違うんじゃないですか?」と思う人はたくさんいるでしょう。ゴッホの作品には燃えるような木々や幻想的な夜の風景、まぶしいほどの太陽や歪んだ建物などゴッホのファンタジアと呼べるような作品がたくさんあります。それらを観るとどうやら「印象派絵画」とは違うようです。確かにゴッホ自身は印象派から刺激を受けたとは言っていますが自身のことを「印象主義者」などとは言っておりません。
この三人は同時代の画家です。モネとルノワールは親しい友人でしたがオランダ人のゴッホとの接点はあまりなかったようです。終生、印象主義の旗を掲げていたのはこの三人の中ではモネだけでしょう。それでもモネとゴッホにはある共通点があります。
それは「ジャポニズム」です。二人とも「浮世絵」から多くのインスピレーションを受けていました。シンプルな配色でカラフルな色彩、大きくデフォルメされた大胆な構図、西洋人の絵画に関する伝統的な考え方を根本からひっくり返すような技法によって彼らは強いショックを受けたと言われています。
モネが晩年を過ごしたジベルニーの家には100枚以上の浮世絵が保管されていますし和服を着た妻カミーユをモデルにした「ラ・ジャポネーズ」も当時大変話題となり人気があった作品と言われています。また、ゴッホの作品の中にも明らかに「浮世絵」の影響を受けた作品が何点もあります。ゴッホは弟テオに何通もの手紙を出しその中で日本と日本人を絶賛(勘違いもあります)しています。もちろん「ジャポニズム」に惹かれた画家は他にも数多くいますがモネとゴッホは別格でした。
一方、ルノワールからは「ジャポニズム」の匂いはあまりしません。彼もまた作品の中でいくつかの技法をテストしていますが「ジャポニズム」にはあまり興味が持てなかったようです。主に人物を中心に 写実的でリアリティのあるヨーロッパ的 な技法で描いたルノワールにとっては「浮世絵」の平坦で平面的な人物画にはいまいち共感できなかったのかもしれませんね。
輪郭線のないふんわりとした幸せそうなルノワールの作品は女性に人気があります。力強いゴッホの作品は男性に、爽やかな風景のモネの作品は男性にも女性にも人気があります。最近は様々な画家の展覧会が日本のあちこちで開催され、今まであまりよく知らなかった画家(フェルメール、アルチンボルド、クリムト、キスリングなど)にもスポットライトが当たるようになりましたが、それでもこの三人は日本では特別な存在です。作品に宗教性や思想性がなく寓意性もありません。ですから観たままを理解すればよいので日本人の穏やかで寛容な国民性にピタリとはまるような気がします。絵画は理解するものではなく楽しむものだとすればモネ、ルノワール、ゴッホはそれを具現化した3巨頭なのです。