初期の百科全書的な寓意画のひとつ。当時のネーデルラント(現在のオランダ、ベルギー、ルクセンブルクの低地部)の庶民のあいだでは、簡潔で機知に富むことわざが好まれた。この作品では農民だけでなく、聖職者や貴族や悪魔も含む100人近い人物が、100近いことわざを演じている。いわば「目で見ることわざ辞典」。
おもしろいのは、ことわざは比喩的表現なので、絵に描いたり絵から意味を読み取るのが難しいものも、あえて絵にしている点だ。たとえば、中央やや左寄りの戸口から男が湯気の立つ大きなかごを抱えて出てくるが、これは「日々をかごで運び出す」で、無意味なことで時間を浪費する
という意味。湯気のようなものは、「日々」という抽象概念を視覚化したものなのだ。
逆にわかりやすいのは、中央手前の「豚の前に薔薇を投げる」。想像がっくように「豚に真珠」と同じ意味だ。このようなことわざの羅列にもかかわらず、画面が無秩序にならず、まとまって見えるのは、左下から右上への対角線を軸とする遠近法的構成と、ブリューゲルには珍しく赤と青を効果的に配した色彩によるところが大きい。
ずいぶん以前のことだが、住宅雑誌にオランダのトイレの写真が掲載されていた。そこにはトイレが二つ並んで設置されていたの思い出した。その時にはその理由が分からなかったが、このことわざを知って合点がいった。しかし、仲の良い夫婦や友人は本当にこんなことをするのだろうか? 確かに平和な光景ではあるがちょっと信じられない。 本当なら何ともおおらかである。